孤食のグルメ

 半田屋のドアをくぐり、トレーを手にするとずらり並べられたおかずの前に立つ。学校で7、8時間もパソコンと睨めっこしていたせいで、腹はペコペコだった。
 しかし、絶対食べようと思っていたサンマの煮つけがない。
「なんだ…出鼻をくじかれちゃったな」
 あの、少し干からびた煮つけの味を思い出しながら課題を終え、学校を飛び出してきたというのに。仕方がない、献立の練り直しだ。みると、ハーフチキン南蛮があった。チキン南蛮か…故郷の味だ。いつ以来だろう、よし、これに決めた。
「なかなか良いぞ、この調子で、次は小鉢だ」
 サンマの煮つけはなかったものの、故郷の味に出合えたことに少し気を取り直し、サイドメニュー選びに取り掛かる。しかし、なすの炒め物に野菜炒め…どれもあまりパッとしない。
 そんな中、棚の左上隅におススメとやらを発見した。中には、ハヤシライスのハヤシの部分だけが盛られているような感じだ。ハヤシライスか、温かい白飯に冷えたハヤシライスをかけながら食べる…何となくうまそうだな。ごろっとしたジャガイモが入っているのもなかなか点数が高い。
 メインとサイドメニューも決まり、レジに向かう途中で100円のチーズケーキも手に取る。レジでは、白飯の中と豚汁を頼んだ。豚汁にはもちろん七味をふる。辛めが好きなので、軽く七味の味がするぐらいふらねば気のすまない質だ。
「さあ、食うぞ!」
 席に着くなり、まずチキン南蛮を一口ほおばる。
「う〜ん、なんだこりゃ、チキン南蛮じゃないなぁ…」
 本当のチキン南蛮は、フライされたチキン全体を甘酢に浸してしっかりと味をつけ、その上からどばっとタルタルソースが掛けてあるものだが、ここのチキン南蛮は甘酢がちょろっとかけてあるだけで、殆どタルタルソースの味しかしない。
「ちょっと失敗だったかな」
 まあしかし、ご飯のおかずとしては申し分ない、白飯と共に飲み込む。タルタルソースの後味をぬぐうために温かいお茶を一口すすると、次は小鉢に取り掛かる。まずごろっとしたじゃが芋を頬張り、白飯を掻きこむ。
「うん、うまい!」
 温かいご飯に冷めたルーってのもなかなか合うもんだ。味の濃いカレーだときつかったしれないけど、味の薄いハヤシライスだからかな。少し欲張りすぎて飲み込むのに苦労したが、お茶で流し込んだ。さあ、次は豚汁だ。
 野菜を滅多に食べない男の一人暮らしに、大きめに切られた野菜が一杯入った豚汁は嬉しい。ご飯粒を少し口に含み、豚汁も口へと流し込む。ごろごろとした野菜の歯ごたえが、野菜を沢山食べている気にさせてくれる。久々に食べた緑黄色野菜であるニンジンの甘みも、しょっぱい豚汁の中にあって心地よい。うん、豚汁は大成功だったな。
 あっという間に食べ終えると、デザートのチーズケーキを頬張る。ちょっとぱさついているけれど、しょっぱいものが多かったからチーズケーキの仄かな甘さが美味しかった。ついでに買っていた冷たいフルーツ牛乳でチーズケーキを飲み込んだ。飯を食べた後で軽く火照った体に、冷たいフルーツ牛乳が染みわたるようだった。


……さて、今回の私の飯代はいくらでしょう?
(追伸)腹が減っている勢いに任せてとりすぎて、レジで泣きかけました;;